メジャー記録を次々と打ち立てる世界的打者、イチロー。メジャーリーガーの選手間投票でも常に上位にランクインする、メジャーリーガー達も認める世界的野球選手であるイチローだが、彼の野球人生は決して成功に彩られているわけではないと思う。前回のWBC、そして今回のWBCでもイチローが見せた様々な表情は、メディアに載ることを意識したものではあるのだろうなと思いつつも、多くの本音を含んでいるのだろうなとも思う。


イチローの発言には、ある種の哀愁を感じさせるものが多いように思う。

・オリックス時代にジャイアンツを倒して日本一になって後、優勝争いから遠ざかっていた時のチームの雰囲気について「ジャイアンツを倒しても自分達は球界の脇役としてしか扱われないことに失望していた感はある」という旨の発言。
・マリナーズにてチームは勝率3割台に低迷する中、262安打のメジャー記録を打ち立てた時「チームが低迷する中、モチベーションを維持するのが大変だった」という旨の発言。
・第一回WBCで優勝した時「これで自分達が世界一だ。文句あるか?と言える」という旨の発言。
・近年チーム内から「チームプレイをしない」と批判され、一部のホームランバッターから「自分も単打狙いでいいならイチローくらいの記録を残せる。イチローはたいしたことない」と言われ、シアトルの地元メディアからもチーム低迷の原因として攻撃される中、メジャー8年連続200安打を達成した時に、王貞治から「(異国の地で上記のような状況の中で)日本人が誰もやっていないことを打ち立てるというのは、想像以上に難しいこと」と言われ、「それが本当にうれしかった」という旨の発言。

これらの発言は、超一流の結果を残しながら「決して球界の中心に自分は存在できていない」という哀愁を醸し出しているようにも思える。故に、WBCでイチローが感情を表に出してプレーし、発言し、チームメイト達と喜び合う姿を見せるのは、マリナーズの選手としてのイチローを取り巻く環境への反発だけでなく、「今間違いなく自分は世界の野球の中心に立っている」という喜びを、心の底から感じているように思えてならない。今日の試合後のインタビューでの様々な発言は、リップサービスというだけでなく、恩師・仰木監督と共に球界の盟主の座を奪取するという夢に破れたあの時から「ようやく主役の座を掴んだ」という、本当の喜びを表していたのかもしれない。

イチローが日本人で無ければ、マリナーズで孤立することは無いだろうと思うし、他のメジャーリーガーからバカにされることも無いだろうと思う。
マリナーズ低迷の原因の一端をイチローが担っているのは事実なのかもしれないが、イチローが独りではなく、チームとしての野球をプレーできる環境が、WBCの舞台でしかない、という現実は、とても淋しく思う。
イチローが日本で自分と近い境遇にあると思ったのか、ベイスターズの内川のことを「うっちー」と呼んでいたのがとても印象的だった。

結果を残してもバッシングされる中、結果を残せなかったらどうなるか・・・そのプレッシャーは、どれほどのものか。孤高の天才イチローが最も賞賛されるべき点は、その精神力にあるのかもしれない。