田口壮が引退ホヤホヤの時期に書いた本ということで、田口の日記のファンということもあって購入しちょびちょび読んでいました。


セイバー廚としては「セイバーメトリクスが苦手」という点がとても興味深ったです(よくよく読むとOPSが苦手、が正解な気もしますが(笑。MLBでプレーし、セイバーメトリクスでは評価されないようなプレーでチームに貢献する田口だからこその視点というか(そういう選手のためにWPAという指標もありますが)。
田口はそもそもセイバーメトリクスが導入されるようになった経緯(お金のないアスレチックスがいかに他球団と競合せずにお安く選手を確保するか、という考えからGMのビリー・ビーンが導入、結果を出したため他球団で追従するものも出てきた)を理解した上で、それでも「そればっかりじゃ味気ないものにならないか?」と言っています。
これは実は自分も思っていることでした。現状のOPS(もしくは出塁率)優先の考え方だと
選手A 打率.230 出塁率.330 長打率.600
選手B 打率.270 出い率.300 長打率.600
の場合、選手Aが評価されてしまいます。最近のMLBではこんな感じの選手がズラーっと並ぶチームがたまにあるんですけど、試合を観ていて正直大味でつまんなかったりすることもあります。打率.230でも30HRとかするクラスの選手ならば観ていて面白いんですけど、当然そのレベルの選手はそんなにいるわけもなく、だいたい.220、20HR弱って選手が多かったりしますよね。まぁ球数信仰の強いMLBだと球数を稼ぐ選手も評価されるので、待球する→四球・三振が増える→打率は下がる可能性が上がるが出塁率は確保される可能性が高い、という流れになってしまうという背景もあるのではと思いますが。
もう一点、田口はデータ重視で選手を評価すると、似たようなデータの選手が二人いる場合にベテランよりも若手を採用するため、味のあるベテランがあっさりと退団、引退するケースも多い、ということも指摘しています。これも年俸高騰を抑えるためには致し方ないことなのですが、なかなか悩ましいお話です(ただこれはセイバーメトリクスどうこうよりも「データ重視」という点が問題なのだと思いますが)。

そして最後に田口は今後またセイバーメトリクスに取って代わるムーブメントがやってくる(既にやってきている)と書いています。これは当のセイバーメトリクスがまた新たな指標、考え方を打ち出しているので「そもそもセイバーメトリクス自身が今後も変わっていく」が正解なんじゃと思います。
その代表例が最近流行りの「ビッグデータ」で。最早ボールの移動を超詳細にログできる時代、どの選手がどういう場面でどういう球をどういう方向にどういう打球で飛ばすか、が簡単に採取されてしまう時代。これは今後の選手価値を大きく変える可能性があると思います。投手はいかに打者にデータ通りの打球を打たせるか、打者はいかにデータとは違う打球を打てるか。それが選手の価値になる時代は、もうすぐやってくるのではと思います。