俺と虎の18年

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第四回 趣味が娯楽でなくなる時
趣味や娯楽とは、日常のストレスを発散するために存在する。では、その趣味や娯楽でストレスを 溜めてしまう場合は、どうすればいいのだろう…。
96年。昨年最下位のメンバーに、ブルーウェーブからやってきた平塚と ルーキー舩木(現・千葉ロッテマリーンズ)を加えただけのタイガース。 無論、ハナから優勝できるなどとは私も思ってはいなかった。だが、前回述べたように、 私は5割くらいなら勝てるんじゃないかと思っていた。しかし、結果は、酷いものだった。 昨年残留したグレン、クールボーは早々に帰国、 代わりに来たマース、クレイグも散々な有様。監督の藤田平は早々と休養。 桧山という大きな遺産は残したものの、関川をコンバートしきれず、消化不良だった。 当時の私の下宿先は、サンテレビが視聴できず、やむなくO田君の家まで見に行ったり していたが、わざわざ見に行っては二人で暗い空気を作ったりしていたものだ。
97年。三度目の吉田政権の一年目となったこの年は、あまりにもネタが多過ぎ、 まさにコミック球団としての使命をタイガースが果たしきった年だった。 まずは助っ人。わずか7試合で帰っていったミスターレッドソックスを筆頭に、 獲った助っ人使う助っ人見事に外しまくり。しかもその外しっぷりが、最初良かったのに だんだんダメになっていく選手もいれば、明らかにダメそうでやっぱりダメだった選手もいたり、 去年他球団でそれなりに打ってたけど解雇された選手を獲ってみたらやっぱりダメだったりと バラエティに富みまくっていた。そこで出来た言葉が「ハインウェルズ・マクドリスト法」。 あまりに出入りの激しい助っ人陣を覚えるために、全員をひとつにまとめてしまおうという 考えだった。友人達と学食で新聞読みながら「絶対カタログ見ただけで決めとんやって」と 嘆いたり「給料いらんから俺達にスカウトさせにいかせろ」と叫んだりしたものだ。 かっこいいところでは和田豊の開幕24試合連続安打、他球団を解雇されテスト入団した 伊藤敦規の奮闘があった。和田がニュースステーションに出演した時は期待通り松田聖子をBGMに してくれて、マジで笑った。 また、グリーンウェルの穴を埋めた四番・桧山が100打点に届こうかという 勢いで前半戦打点を稼ぐも、気が付けば228の低打率四番として終わったりといった点も非常に趣があった。 チーム全体も、ジャイアンツと熾烈な四位争いを展開し、久方ぶりにジャイアンツより上に行けそうな 雰囲気であったが、和田を故障で欠いて後、急降下。5割、借金一桁の夢も潰え、ジャイアンツに1ゲーム差で 5位に終わった。しかしそれもまた趣があった。私は「この戦力でこんだけやれたのだから、来季こそは」と 希望に夢膨らんでいた。 この年の夏、劇場版『エヴァンゲリオン』が公開された。その作中の、葛城ミサトさんの セリフは、私の心を打った。「今泣いたってどうにもならないわ」「他人だからどうだってのよ!!アンタこのままやめるつもり?今、ここで何もしなかったら、わたし許さないからね、一生アンタを許さないからね。今の自分が絶対じゃないわ。後で間違いに気付き、後悔する。わたしはその繰り返しだった。ぬか喜びと自己嫌悪を繰り返すだけ。でも、その度に前に進めた気がする」それは、タイガースファンの叫びに似ていた。

だだっ子シンジ君を諭すミサトさん。今観ても泣ける名シーン。

この年は哲がどんどんオタク道を邁進した年だった。96年と違い、97年は上記にもある通り 見所のあるシーズンだった。故に、期待も大きく、負けた時の喪失感は本当に大きいものだった。 そしてその喪失感を埋めるためにゲーム・アニメ・漫画に没頭した。 この年の初めにプレイステーションを購入した私は、『トゥルーラブ・ストーリー』と 『ときめきメモリアル』にバカハマリしていた。隣人だったひでちん曰く「敗色濃厚になって部屋に行くと 『トゥルーラブ』してるというパターンが多かった」とのこと。夏に出た『ときめきメモリアル ドラマシリーズVol.1 虹色の青春』では号泣し、「タイガースにも虹野さんがいれば…」などと 呟いたとか。また、『逮捕しちゃうぞ』の辻本夏実にもバカハマリ。ストライク男との対決において披露 した打棒に惚れ込んだとかなんとか。

初代『トゥルーラブ・ストーリー』。このジャンルには珍しく、キャラデザイン、シナリオなど全般に渡って地味であり、それがウリでもあった青臭い青春恋愛SLG。 転校までの一ヶ月で女の子と仲良くなるのが目的。EDはどのキャラでもそれなりに感動出来る最強設定。哲を逃避トリップに誘うには十分過ぎる内容だった。
『ときめき』四天王の一角を担う虹野沙希さん。きらめき高校に通う女子高生にして運動部のアイドル。『虹色の青春』ではサッカー部マネージャーとして主人公のスタメン昇格を支えた。タイガースにもそんな存在がいてくれれば…。
辻本夏実巡査。驚異的なパワーとバイクテクで日夜厳しい勤務を耐え抜く婦警さん。画面はアニメでのストライク男との初対決より。その打棒を観て哲は「こいつやぁ!!お前ウチで野球やらんか!?」と岩田鉄五郎ばりに叫んだとかいう噂。ちなみにこの頃の作画が厳しかったのはいい想い出(笑。

98年。オフに大豊・パウエルを獲得するという時代に逆行しまくる補強をしたタイガース。 私が97年に抱いていた期待は一気に不安へ。「それでも得点力は確実に上がっているのではないか」と 気持ちを持ち直しシーズンに臨んだが、大豊もパウエルも散々な結果に終わり、 昨年四番に定着したかに見えた桧山は伸び悩み、新庄は7月までホームランが一本も出ないという 絶不調ぶり。5月頃には早々と諦めムードに入っていた。そんな中、大豊と一緒にタイガースへやってきた 矢野は、外角スライダー一辺倒の山田リードとは明らかに違う素晴らしいリードを披露。 少女漫画『彼氏彼女の事情』2巻で雪野ちゃんが有馬君を褒めるシーンになぞらえて「隙なし捕手矢野」などと 呼称し矢野に惚れ込みまくっていた。
『彼氏彼女の事情』2巻。己を飾らずに生きていこうと決めた宮沢雪野と有馬総一郎。付き合い始めた二人のラブラブぶりが初々しいが、最近の話を読んでるととても作中で2年前の話とは思えない(笑。

どん底だったシーズンに矢野以外に光明を見せたのが、二年目の今岡とルーキーの坪井(現・日本ハムファイターズ)、若手投手の山村(現・近鉄バファローズ)、井上(現・千葉ロッテマリーンズ)だった。そんな彼らの 姿と、相変わらず下を向きながらプレーしている星野修(現・近鉄バファローズ)や竹内(後にファイターズへ移籍し、引退)らに、 夏に見に行った劇場版『機動戦艦ナデシコ』と同時上映されていた『スレイヤーズごうじゃす』の 主題歌「raging waves」がしっくり来て心に染みた。
『機動戦艦ナデシコ』劇場版のホシノ・ルリさん。テレビシリーズから立派に成長した彼女を観て「ウチのホシノは全然成長せんのに…」と相変わらず一塁ゴロや膝元変化球空振り三振を量産し続ける星野修を観ながら思ったとかなんとか。
「raging waves」ジャケット裏。全編に渡ってひとつの替歌も必要としない程完璧なまでに弱小球団応援ソング。特に「いきなり強いわけじゃない いきなりできるわけじゃない 繰り返して行く日々から つくりあげてくの自分を」という部分は泣ける。

しかしながら、坪井はなかなか使ってもらえなかった。というのも、吉田監督が、自分が連れてきた意地も あったのだろうが、パウエルにこだわり続けていたからである。遂に我慢も限界に来た私は、 夏に発売された『ときめきの放課後 〜ね☆クイズしよ〜』にて「坪井がスタメンで使われるまで紐緒閣下と 遊ばない」という「閣下断ち」を実行。パウエルの故障により一週間経ってようやく紐緒閣下とお勉強 出来たのだった。故障してなかったらどうなってたかは想像したくない。
『ときめきの放課後』より紐緒閣下とのお勉強シーン。紐緒閣下の行き過ぎた自信を100分の1でもいいからウチの選手にくれてやりたいと思ってましたよ。

このほか、この年は生まれて初めて鳴尾浜の二軍の試合を見に行ったりもした。 そこで出会った林というおっさんは、昔のタイガースの映像に度々出てくるイカしたタイガースファンで、 アベロクことABCのアナウンサー安部憲幸さんからも「おお林さん久しぶり」などと言われていた超有名人 だった。「最近は上(一軍)よりこっち(二軍)の方がおもろいでぇ。中村ノリも昔はここで 元気にやっとったわ」と言う林さんに将来目指すべき姿を見た気がした。
そして98年オフ。野村克也招聘という、生え抜き監督にこだわり続けてきたタイガースでは信じられない 人事がなされ、私は心から喜んだ。「他球団ファンからどうすればタイガースを強く出来るか学ぶ会」こと「FYTN」もこの時発足した。名前の由来は「From Yossan To Nomusan」略して「FYTN」。 会の名前にする程、それは奇跡的な所業だった。しかし…タイガースは強くなれなかった。 99年。野村フィーバーに沸く安芸キャンプに、私と友人達も乗り込んだ。そして関西のトラキチのカリスマ、 道上洋三と一緒にオープン戦を観戦するという最高の栄誉を味わった。 「今年はきっといい年になる」期待は胸膨らむばかりであった。しかし…シーズン序盤こそ快進撃を 続けたタイガースであったが、練習不足からあっさりと息切れ。春先ホームランを量産し「バースの再来」 と言われた「超人マーク」ことジョンソンの調子が落ちると共に、タイガースも急速に下降していった。 野村政権と言えば、反野村派に突かれまくったのが今岡の冷遇。野村監督は 「自分のことしか考えない選手はいらない」と叱り、そうは言いながらも実は結構使っていたのだが、 一度刻まれた二人の溝はついぞ埋まることがなかった。後にのむさんは「叱らずにおだてればよかったのか」 と述懐し、その他関係者も最近「今岡は褒めて育つタイプだった」と言っているが、当時の私は、いや、 今も思ってはいるのだが、「お前は誰のために野球やっとんねん」と思った。その思いにダイレクトで 来たのが『まもって 守護月天!』10巻だった。変わりたいけど変われない、そんな自分にヤキモキしていた 万難地天・紀柳だったが、主人公・太助の姉、那奈に「あんたのことなんてもう知らない」と言われ、 ますます落ち込んでしまう。己の役目も全うに果たせなくなったキリュウに、那奈姉の叫んだセリフ… それは、私を号泣させずにはいられない名台詞だった。「なんでわかんないんだよ!! 立ち直ってくれると思って言ったのに…」くぅ、今読んでも泣けるぜ…。
『まもって 守護月天!』10巻。「万難地天の憂鬱」前中後編は伝説。最近新装版が出ましたが、そっちだと9巻に収録されてます。しかし、ここから一気にクライマックスへ!と思ったのにまだダラダラ続いてるのは残念。なんのためのキリュウちゃん覚醒だったのか…。

この年の作品で他に考えさせられたのが、『無限のリヴァイアス』。ユイリィ・バハナというキャラが 無理矢理艦長に就任させられるのだが、成績トップの才能を発揮できずにヤキモキしている姿を観て 「あぁ、イヤイヤ上に座ってもあんましええ采配はできんのかのぉ」と歴代監督を思い浮かべながら 思ったとかなんとか。
苦悩する艦長ユイリィ・バハナ嬢。『無限のリヴァイアス』は様々なキャラの想いが交錯し、視聴者からも様々な意見が出る、観て考えて話すのが楽しい作品だった。阪神タイガースと並んで私の人生に(人間関係において)多大な影響を与えたと言っていい。

そして2000年春。私は大学卒業。遂に、学生時代に優勝をもう一度味わうことなく、社会の荒波へと 投げ出されたのであった…。一日中タイガースのことを考える時間があったあの頃、試合開始時には 必ずテレビの前にいたあの頃。間違いなく、人生で一番タイガースに時間を割けた、割いていたあの頃の 自分に、タイガース優勝を味わらせてやれないのは非常に残念である。今年の優勝で、あの頃の自分も 報われるのだろうか?2000年のタイガースは9連勝を記録するなどの快進撃もあったが、前年同様結局 長続きしなかった。唯一の収穫は新庄が四番として覚醒したことだったが、それもオフのFA移籍で無駄に 終わる。シーズン終了間際に就職し仕事を始めた私は、会社の先輩より『大運動会』を借り、 いっちゃんのバリバリタイガースファンっぷりに爆笑したのであった。
いっちゃん。『バトルアスリーテス大運動会』に登場する関西娘。寝巻きはタテジマ背番号11、ベッドの脇の壁には特大のタイガース(とおぼしき)の旗を貼っているというコテコテトラキチ。よく見るとこの絵のタオルもタイガースカラー。主人公・あかりとの友情を越えた壮絶バトルは涙なくしては語れない。

今回はここまで。全てを賭けた新庄剛志に出て行かれた野村タイガース!!野村克也、最後の一年、それは まさに地道な種蒔きに明け暮れた一年だった!!次回「野村克也の意地」へ続く(予定)。(2003/9/7)